2:アートフェアとは

ギャラリーの項では、実際のギャラリーにはどのような種類があるのか、について簡単に述べました。ひとつひとつギャラリーを観て回るのは大変楽しいのですが、かなり時間や体力が必要になってくるのもまた事実です。中には「日頃からゆっくりギャラリー巡りをしている時間はないなぁ」「一度にたくさんのギャラリーをまわって自分の好みの作品を見つける事はできないだろうか」と考える人もいるでしょう。実はそのような方にぴったりのイベントがあります。それがアートフェア(Art Fair)です。


アートフェア会場の様子(Miart,ミラノ)

真剣に商談中(Miart,ミラノ)

巨大な会場(Miart,ミラノ)


アートフェア(Art Fair) :

アートフェアは直訳すると「芸術の見本市」という意味です。たくさんのギャラリーが巨大な会場に集まり、作品で溢れてかえっています。参加ギャラリーはブースごとに所属アーティストの作品を設置し、来場者がその中からお気に入りを探す様子は、まるで宝探しのようでもあります。現在、世界中の都市で頻繁に開催されているのですが、有名なところでは毎年6月にスイスのバーゼル市で行われる「アートバーゼル(Art Basel)」があります。正確な数字は公表されていませんが、毎年数百億円の取引が行われるているといわれる巨大フェアです。来場者も数日間で何万人という規模ですから、どれだけ大きなイベントかお分かり頂けるでしょう。

アートフェアに参加するのはギャラリーか、あるいはギャラリーを持たないアートキュレーターなので、アーティスト個人が出展を申し込む事は出来ません。そしてアートフェア主催者は申し込みのあったギャラリーを審査し、クオリティを保つ努力をしてます。例えば先のアートバーゼルに参加するにはものすごく厳しい審査があると言われています。もし運良く審査を通ったとしても、今度は莫大なブース料をクリアにしなければいけませんので、ギャラリーにとってもあこがれの舞台といったところでしょうか。

大抵は初日の前日にプレスビューが設けられ、プレスや招待客に向けて先攻公開しています。人気アーティストの作品はこの日に売れ切れてしまう事も少なくありません。またギャラリーからギャラリーが買うという、いわば業者間取引が行われるのもプレスビューの日です。それに対して一般の来場者は入場チケットを購入してから入場します。アートオークションとはまた違った雰囲気があり、その年の人気の傾向が顕著に現れるのが特徴です。会場にはレストランや本屋などもあり、買わなくてもぶらりと楽しめるので、週末になると家族連れの姿もよく目にします。

最近日本でもアートフェア東京などが開催され、ようやくアートフェアが認知されつつあるようですが、生活の中に溶け込んでいくにはまだまだ時間がかかるでしょう。

会場の中のレストラン(lineart,ゲント)

ちょっと一休み(lineart,ゲント)

このようにアートフェアは一年中どこかの街で開催されているのですが、一口にアートフェアといっても、その規模やテーマは様々です。そこで最後にロンドンを例にとり、いくつかのアートフェアを紹介します。

ロンドンはニューヨークやパリと並んでアートが盛んな街なので、アートバーゼルのように国際的なアートフェアがあります。会場も大きく、とても一日で全ての作品を観る事はできません。このような巨大なフェアは審査も厳しいので、自ずと参加できるギャラリーは国内外の有名どころになります。従って出品されている作品も有名なアーティストが制作したものが多くなります。それだけに単価は高くなる傾向にありますが、その分見応えもあります。美術館で飾られているような作品を直接観て、しかも買えるわけですから、コレクターにはたまらない時間になるでしょう。逆に言うと、いわゆる掘り出し物には出会いづらいのかもしれません。ロンドンではフリーズ・アートフェア(Frieze Art Fair)やロンドン・アートフェア(London Art Fair)が有名です。

またギャラリーの傾向やジャンルを絞って開催されるものもあります。たとえばズー・アートフェア(Zoo Art Fair)への出展条件は「イギリスを拠点にしていて、且つ設立4年未満の若手ギャラリーかアートグループ」となっており、フレッシュな作品が並びます。会場もロンドン最大の動物園「LONDON ZOO」の中なので、家族連れやカップルがリージェンツ・パークを散歩しながら動物園に入り、動物を観た後にアートを楽しんでから帰る、といった流れができているようです。

会場が特殊といえば、スコープ・ロンドン(Scope London)もはずせません。 このアートフェアは何とホテルの中で行われています。ロンドンの中心地、トラファルガー・スクエアからすぐ近くにあるフィリップ・スタルク・プロデュースのデザインホテル、セントマーチンズ・レーン・ホテルのファーストフロアが会場となります。ここでは国内外のギャラリスト約50組が参加していますが、同様の企画がマイアミやニューヨーク、マドリッドなどでも開催されています。来場者はホテルの客室を一室ずつ訪れ、狭い部屋の中に所狭しと設置された作品を観ていくのですが、ベッドの上に置いてある絵画や洗面所に備え付けられた彫刻など、美術館やギャラリーとは違った距離感に最初は戸惑ってしまいます。しかし日常の中では、豪邸にでも住んでいない限り、むしろ作品が近いところにある方が普通なのかもしれません。もちろんアートフェアですから気に入ったものがあれば購入も可能です。

その他にも地元密着型のバタシー・コンテポラリー・アートフェア(Battersea Contemporary Art Fair)や、ノンプロフィットオーガニゼーションが主催している小規模なインスパイヤード・アートフェア(Inspired Art Fair)、全ての作品の値段が50ポンドから3,000ポンドまでの間に設定されている、気軽に買える事をテーマにしたアートフェア、アフォーダブル・アートフェア(Affordable Art Fair)など、大小様々なアートフェアがたくさんありますので、ロンドンを旅行する際にはこれらのアートフェアに合わせたスケジュールを組むのも楽しいかもしれません。ちなみにフリーズ・アートフェア、ズー・アートフェア、スコープ・ロンドンは毎年10月にほぼ同時開催しています。この時期のロンドンは正にアート一色。ほとんどの人が3つとも回るので、それだけで何日もかかりますし、最後には皆アート漬けになる事間違いなしです。

いずれにしてもアートフェアはただ単に作品売買の場というだけでなく、日常の生活に染み込んだイベントだという事がお分かり頂けたかと思います。もちろん創る側のアーティストも、売る側のギャラリーも、そして買う側のコレクターも、真剣勝負である事は間違いないのですが、同時に皆が楽しんでいます。その懐の深さがアートを育てる土壌になっているのかもしれませんね。日本も早くそうなってほしいものです。


参考リンク
アートバーゼル(Art Basel) http://www.artbasel.com/
アートフェア東京 http://www.artfairtokyo.com/


参考リンク(ロンドン編)
Frieze Art Fair  http://www.frieze.com/
London Art Fair http://www.londonartfair.co.uk/page.cfm
Zoo Art Fair  http://www.zooartfair.com/
scope London http://www.scope-art.com/
Battersea Contemporary Art Fair(BCAF) http://www.bcaf.info/
Inspired Art Fair http://www.inspiredartfair.com/home.php
Affordable Art Fair http://www.affordableartfair.com/