3:その他のアートイベント

その他のアートイベント:

前述の通り、アートフェア(Art Fair)は美術作品を売買する機会として、一年中どこかの都市で開催されていますが、一方で売買を主な目的としないアートイベントもあります。よく知られているのがヴェネツィアビエンナーレ(La Biennale di Venezia)でしょう。ビエンナーレ(biennale)とはイタリア語で「2年に一度」という意味ですが、現在ではサンパウロビエンナーレ神戸ビエンナーレなど、他の言語圏でもビエンナーレという名称で開催されているようです。

会場入り口の看板(ヴェネチア・ビエンナーレ

地図でお目当ての場所を探す(ヴェネチア・ビエンナーレ

メイン会場の中(ヴェネチア・ビエンナーレ

作品と鑑賞者(ヴェネチア・ビエンナーレ

会期中は夜もお祭り(ヴェネチア・ビエンナーレ


ヴェネツィアビエンナーレでは世界中から最も旬なアーティストが集められ、また各参加国がパビリオン形式で自国のアーティストを紹介している為、まるでアートのオリンピックのような様相です。街中がアート一色に染められ、市としても街おこし的側面があるので協力を惜しみません。一般の教会やアパートなどが会場として提供される場合もあります。何と第一回目が1895年開催という、とても歴史のあるアートイベントです。ちなみに日本は第二回目から参加しています。

また、ビエンナーレに続けとばかりに最近増えているのがトリエンナーレ(triennale)です。これもイタリア語ですが「3年に一度」という意味になります。日本でも最近、横浜トリエンナーレが始まり話題を呼びました。実はこのようなビエンナーレトリエンナーレは美術界だけでなく、建築やデザインなど他の分野でも開催されていますので、機会があれば訪れてみてはいかがでしょうか。

最後にもうひとつだけ、現代美術の最先端を行くアートイベントを紹介しておきましょう。ドクメンタ(documenta)と呼ばれるこのイベントは、ドイツのカッセルという都市で行われています。開催周期はトリエンナーレより更に長く、5年に一度しか開かれません。カッセルは歴史のある、小さな地方都市なのですが、ドクメンタの時期には世界中のアートファンが集い大変盛り上がります。それくらい美術界にとって重要な展覧会なのです。その後の現代美術の方向性を決定づけているといっても過言ではないでしょう。しかしドクメンタは最先端の現代美術故に難解な作品も多く、お祭りとしてはヴェネツィアビエンナーレの方が楽しめるかもしれません。ヴェネツィアビエンナーレドクメンタの違いは、前者がアートディレクター主導の会場と各参加国による会場の二部構成なのに対し、後者は参加アーティスト全てをアートディレクターがコントロールするところにあります。従ってその時のアートディレクターの感性が全面に出て、雰囲気が毎回ガラッと変わるわけです。いずれにせよ、アートバーゼルヴェネツィアビエンナーレ、そしてこのドクメンタを観ておけば、その時代最高の美術作品を直に感じ取る事ができるかと思います。

参考リンク:
ヴェネツィアビエンナーレ(La Biennale di Venezia) http://www.labiennale.org/it/
ドクメンタ(Documenta) http://www.documenta.de/

写真・文:八戸香太郎

2:アートフェアとは

ギャラリーの項では、実際のギャラリーにはどのような種類があるのか、について簡単に述べました。ひとつひとつギャラリーを観て回るのは大変楽しいのですが、かなり時間や体力が必要になってくるのもまた事実です。中には「日頃からゆっくりギャラリー巡りをしている時間はないなぁ」「一度にたくさんのギャラリーをまわって自分の好みの作品を見つける事はできないだろうか」と考える人もいるでしょう。実はそのような方にぴったりのイベントがあります。それがアートフェア(Art Fair)です。


アートフェア会場の様子(Miart,ミラノ)

真剣に商談中(Miart,ミラノ)

巨大な会場(Miart,ミラノ)


アートフェア(Art Fair) :

アートフェアは直訳すると「芸術の見本市」という意味です。たくさんのギャラリーが巨大な会場に集まり、作品で溢れてかえっています。参加ギャラリーはブースごとに所属アーティストの作品を設置し、来場者がその中からお気に入りを探す様子は、まるで宝探しのようでもあります。現在、世界中の都市で頻繁に開催されているのですが、有名なところでは毎年6月にスイスのバーゼル市で行われる「アートバーゼル(Art Basel)」があります。正確な数字は公表されていませんが、毎年数百億円の取引が行われるているといわれる巨大フェアです。来場者も数日間で何万人という規模ですから、どれだけ大きなイベントかお分かり頂けるでしょう。

アートフェアに参加するのはギャラリーか、あるいはギャラリーを持たないアートキュレーターなので、アーティスト個人が出展を申し込む事は出来ません。そしてアートフェア主催者は申し込みのあったギャラリーを審査し、クオリティを保つ努力をしてます。例えば先のアートバーゼルに参加するにはものすごく厳しい審査があると言われています。もし運良く審査を通ったとしても、今度は莫大なブース料をクリアにしなければいけませんので、ギャラリーにとってもあこがれの舞台といったところでしょうか。

大抵は初日の前日にプレスビューが設けられ、プレスや招待客に向けて先攻公開しています。人気アーティストの作品はこの日に売れ切れてしまう事も少なくありません。またギャラリーからギャラリーが買うという、いわば業者間取引が行われるのもプレスビューの日です。それに対して一般の来場者は入場チケットを購入してから入場します。アートオークションとはまた違った雰囲気があり、その年の人気の傾向が顕著に現れるのが特徴です。会場にはレストランや本屋などもあり、買わなくてもぶらりと楽しめるので、週末になると家族連れの姿もよく目にします。

最近日本でもアートフェア東京などが開催され、ようやくアートフェアが認知されつつあるようですが、生活の中に溶け込んでいくにはまだまだ時間がかかるでしょう。

会場の中のレストラン(lineart,ゲント)

ちょっと一休み(lineart,ゲント)

このようにアートフェアは一年中どこかの街で開催されているのですが、一口にアートフェアといっても、その規模やテーマは様々です。そこで最後にロンドンを例にとり、いくつかのアートフェアを紹介します。

ロンドンはニューヨークやパリと並んでアートが盛んな街なので、アートバーゼルのように国際的なアートフェアがあります。会場も大きく、とても一日で全ての作品を観る事はできません。このような巨大なフェアは審査も厳しいので、自ずと参加できるギャラリーは国内外の有名どころになります。従って出品されている作品も有名なアーティストが制作したものが多くなります。それだけに単価は高くなる傾向にありますが、その分見応えもあります。美術館で飾られているような作品を直接観て、しかも買えるわけですから、コレクターにはたまらない時間になるでしょう。逆に言うと、いわゆる掘り出し物には出会いづらいのかもしれません。ロンドンではフリーズ・アートフェア(Frieze Art Fair)やロンドン・アートフェア(London Art Fair)が有名です。

またギャラリーの傾向やジャンルを絞って開催されるものもあります。たとえばズー・アートフェア(Zoo Art Fair)への出展条件は「イギリスを拠点にしていて、且つ設立4年未満の若手ギャラリーかアートグループ」となっており、フレッシュな作品が並びます。会場もロンドン最大の動物園「LONDON ZOO」の中なので、家族連れやカップルがリージェンツ・パークを散歩しながら動物園に入り、動物を観た後にアートを楽しんでから帰る、といった流れができているようです。

会場が特殊といえば、スコープ・ロンドン(Scope London)もはずせません。 このアートフェアは何とホテルの中で行われています。ロンドンの中心地、トラファルガー・スクエアからすぐ近くにあるフィリップ・スタルク・プロデュースのデザインホテル、セントマーチンズ・レーン・ホテルのファーストフロアが会場となります。ここでは国内外のギャラリスト約50組が参加していますが、同様の企画がマイアミやニューヨーク、マドリッドなどでも開催されています。来場者はホテルの客室を一室ずつ訪れ、狭い部屋の中に所狭しと設置された作品を観ていくのですが、ベッドの上に置いてある絵画や洗面所に備え付けられた彫刻など、美術館やギャラリーとは違った距離感に最初は戸惑ってしまいます。しかし日常の中では、豪邸にでも住んでいない限り、むしろ作品が近いところにある方が普通なのかもしれません。もちろんアートフェアですから気に入ったものがあれば購入も可能です。

その他にも地元密着型のバタシー・コンテポラリー・アートフェア(Battersea Contemporary Art Fair)や、ノンプロフィットオーガニゼーションが主催している小規模なインスパイヤード・アートフェア(Inspired Art Fair)、全ての作品の値段が50ポンドから3,000ポンドまでの間に設定されている、気軽に買える事をテーマにしたアートフェア、アフォーダブル・アートフェア(Affordable Art Fair)など、大小様々なアートフェアがたくさんありますので、ロンドンを旅行する際にはこれらのアートフェアに合わせたスケジュールを組むのも楽しいかもしれません。ちなみにフリーズ・アートフェア、ズー・アートフェア、スコープ・ロンドンは毎年10月にほぼ同時開催しています。この時期のロンドンは正にアート一色。ほとんどの人が3つとも回るので、それだけで何日もかかりますし、最後には皆アート漬けになる事間違いなしです。

いずれにしてもアートフェアはただ単に作品売買の場というだけでなく、日常の生活に染み込んだイベントだという事がお分かり頂けたかと思います。もちろん創る側のアーティストも、売る側のギャラリーも、そして買う側のコレクターも、真剣勝負である事は間違いないのですが、同時に皆が楽しんでいます。その懐の深さがアートを育てる土壌になっているのかもしれませんね。日本も早くそうなってほしいものです。


参考リンク
アートバーゼル(Art Basel) http://www.artbasel.com/
アートフェア東京 http://www.artfairtokyo.com/


参考リンク(ロンドン編)
Frieze Art Fair  http://www.frieze.com/
London Art Fair http://www.londonartfair.co.uk/page.cfm
Zoo Art Fair  http://www.zooartfair.com/
scope London http://www.scope-art.com/
Battersea Contemporary Art Fair(BCAF) http://www.bcaf.info/
Inspired Art Fair http://www.inspiredartfair.com/home.php
Affordable Art Fair http://www.affordableartfair.com/

2:アートフェアとは

ギャラリーの項では、実際のギャラリーにはどのような種類があるのか、について簡単に述べました。ひとつひとつギャラリーを観て回るのは大変楽しいのですが、かなり時間や体力が必要になってくるのもまた事実です。中には「日頃からゆっくりギャラリー巡りをしている時間はないなぁ」「一度にたくさんのギャラリーをまわって自分の好みの作品を見つける事はできないだろうか」と考える人もいるでしょう。実はそのような方にぴったりのイベントがあります。それがアートフェア(Art Fair)です。

アートフェア(Art Fair) :

アートフェアは直訳すると「芸術の見本市」という意味です。たくさんのギャラリーが巨大な会場に集まり、作品で溢れてかえっています。参加ギャラリーはブースごとに所属アーティストの作品を設置し、来場者がその中からお気に入りを探す様子は、まるで宝探しのようでもあります。現在、世界中の都市で頻繁に開催されているのですが、有名なところでは毎年6月にスイスのバーゼル市で行われる「アートバーゼル(Art Basel)」があります。正確な数字は公表されていませんが、毎年数百億円の取引が行われるているといわれる巨大フェアです。来場者も数日間で何万人という規模ですから、どれだけ大きなイベントかお分かり頂けるでしょう。

アートフェアに参加するのはギャラリーか、あるいはギャラリーを持たないアートキュレーターなので、アーティスト個人が出展を申し込む事は出来ません。そしてアートフェア主催者は申し込みのあったギャラリーを審査し、クオリティを保つ努力をしてます。例えば先のアートバーゼルに参加するにはものすごく厳しい審査があると言われています。もし運良く審査を通ったとしても、今度は莫大なブース料をクリアにしなければいけませんので、ギャラリーにとってもあこがれの舞台といったところでしょうか。

大抵は初日の前日にプレスビューが設けられ、プレスや招待客に向けて先攻公開しています。人気アーティストの作品はこの日に売れ切れてしまう事も少なくありません。またギャラリーからギャラリーが買うという、いわば業者間取引が行われるのもプレスビューの日です。それに対して一般の来場者は入場チケットを購入してから入場します。アートオークションとはまた違った雰囲気があり、その年の人気の傾向が顕著に現れるのが特徴です。会場にはレストランや本屋などもあり、買わなくてもぶらりと楽しめるので、週末になると家族連れの姿もよく目にします。

最近日本でもアートフェア東京などが開催され、ようやくアートフェアが認知されつつあるようですが、生活の中に溶け込んでいくにはまだまだ時間がかかるでしょう。

このようにアートフェアは一年中どこかの街で開催されているのですが、一口にアートフェアといっても、その規模やテーマは様々です。そこで最後にロンドンを例にとり、いくつかのアートフェアを紹介します。

ロンドンはニューヨークやパリと並んでアートが盛んな街なので、アートバーゼルのように国際的なアートフェアがあります。会場も大きく、とても一日で全ての作品を観る事はできません。このような巨大なフェアは審査も厳しいので、自ずと参加できるギャラリーは国内外の有名どころになります。従って出品されている作品も有名なアーティストが制作したものが多くなります。それだけに単価は高くなる傾向にありますが、その分見応えもあります。美術館で飾られているような作品を直接観て、しかも買えるわけですから、コレクターにはたまらない時間になるでしょう。逆に言うと、いわゆる掘り出し物には出会いづらいのかもしれません。ロンドンではフリーズ・アートフェア(Frieze Art Fair)やロンドン・アートフェア(London Art Fair)が有名です。

またギャラリーの傾向やジャンルを絞って開催されるものもあります。たとえばズー・アートフェア(Zoo Art Fair)への出展条件は「イギリスを拠点にしていて、且つ設立4年未満の若手ギャラリーかアートグループ」となっており、フレッシュな作品が並びます。会場もロンドン最大の動物園「LONDON ZOO」の中なので、家族連れやカップルがリージェンツ・パークを散歩しながら動物園に入り、動物を観た後にアートを楽しんでから帰る、といった流れができているようです。

会場が特殊といえば、スコープ・ロンドン(Scope London)もはずせません。 このアートフェアは何とホテルの中で行われています。ロンドンの中心地、トラファルガー・スクエアからすぐ近くにあるフィリップ・スタルク・プロデュースのデザインホテル、セントマーチンズ・レーン・ホテルのファーストフロアが会場となります。ここでは国内外のギャラリスト約50組が参加していますが、同様の企画がマイアミやニューヨーク、マドリッドなどでも開催されています。来場者はホテルの客室を一室ずつ訪れ、狭い部屋の中に所狭しと設置された作品を観ていくのですが、ベッドの上に置いてある絵画や洗面所に備え付けられた彫刻など、美術館やギャラリーとは違った距離感に最初は戸惑ってしまいます。しかし日常の中では、豪邸にでも住んでいない限り、むしろ作品が近いところにある方が普通なのかもしれません。もちろんアートフェアですから気に入ったものがあれば購入も可能です。

その他にも地元密着型のバタシー・コンテポラリー・アートフェア(Battersea Contemporary Art Fair)や、ノンプロフィットオーガニゼーションが主催している小規模なインスパイヤード・アートフェア(Inspired Art Fair)、全ての作品の値段が50ポンドから3,000ポンドまでの間に設定されている、気軽に買える事をテーマにしたアートフェア、アフォーダブル・アートフェア(Affordable Art Fair)など、大小様々なアートフェアがたくさんありますので、ロンドンを旅行する際にはこれらのアートフェアに合わせたスケジュールを組むのも楽しいかもしれません。ちなみにフリーズ・アートフェア、ズー・アートフェア、スコープ・ロンドンは毎年10月にほぼ同時開催しています。この時期のロンドンは正にアート一色。ほとんどの人が3つとも回るので、それだけで何日もかかりますし、最後には皆アート漬けになる事間違いなしです。

いずれにしてもアートフェアはただ単に作品売買の場というだけでなく、日常の生活に染み込んだイベントだという事がお分かり頂けたかと思います。もちろん創る側のアーティストも、売る側のギャラリーも、そして買う側のコレクターも、真剣勝負である事は間違いないのですが、同時に皆が楽しんでいます。その懐の深さがアートを育てる土壌になっているのかもしれませんね。日本も早くそうなってほしいものです。


参考リンク
アートバーゼル(Art Basel) http://www.artbasel.com/
アートフェア東京 http://www.artfairtokyo.com/


参考リンク(ロンドン編)
Frieze Art Fair  http://www.frieze.com/
London Art Fair http://www.londonartfair.co.uk/page.cfm
Zoo Art Fair  http://www.zooartfair.com/
scope London http://www.scope-art.com/
Battersea Contemporary Art Fair(BCAF) http://www.bcaf.info/
Inspired Art Fair http://www.inspiredartfair.com/home.php
Affordable Art Fair http://www.affordableartfair.com/

1:ギャラリーとは

ギャラリーには大きく分けて二つのスタイルがあります。コマーシャルギャラリーとレンタルギャラリーです。

日本ではよく「企画展」「企画ギャラリー」、あるいは略して「企画」という言葉を耳にしますが、それらはコマーシャルギャラリーの意味として使われています。
なぜコマーシャルギャラリーを「企画」と呼ぶのでしょうか。

簡単に説明しますと、レンタルギャラリーでは、アーティスト自身が企画内容を考え展覧会をつくっていきます。(レンタルギャラリーについては後述します。)
それに対しコマーシャルギャラリーでは、作品を販売する為に様々なテーマを取り上げ、ギャラリーが主体となって展覧会を企画していくのです。その主語がいつしか抜けて「企画」という言葉になったというわけです。つまり「企画」は「コマーシャルギャラリーが展覧会を企画運営している」という意味を集約しています。

それでは個々の運営方法に注意しながら、ギャラリーのスタイルをみていきましょう。まず第一にコマーシャルベースのギャラリー。ここは作品の売買を主な目的としています。日本では古くから画廊と称していましたが、画廊はコマーシャルギャラリーとほぼ同義と考えて良いと思います。ただ画廊の場合は骨董を扱っているものも含みますので、ここでは現代作家の作品を扱うギャラリー、という括りで説明していきます。

多くのアーティストはギャラリーで個展の機会を設け、そこで作品を発表し、それを売って生活しています。と同時にギャラリーも作品の売り上げから様々な人件費、スペースの賃貸料、DMなどの広告費などを捻出しますので、作品の売り上げは双方にとって死活問題です。ですからギャラリーは慎重にその作品が売れるかどうか判断してからアーティストと契約を結ぶ事になります。

このような場合、アーティストとギャラリーは一蓮托生の関係にあるといえるでしょう。よって作品売買に関する利潤も折半を基準とするのが通例です。ニューヨークやパリのコマーシャルベースのギャラリーはほとんどがこのスタイルと言ってよいと思います。ギャラリストは様々なテーマで企画を考え、アーティストをリードしながら展覧会をつくり上げていきます。ギャラリーのホームページなどに「所属アーティスト」という項目があれば、そこはコマーシャルギャラリーであり、基本的にそのギャラリー所属のアーティストの作品をいつでも買う事ができます。いわばアーティストは球団でいうところの選手のような存在であり、作品に人気があれば値段も上がり、反対に評判が悪ければリストラされる事もあります。他のギャラリーへ移籍、というのも頻繁に行われているようです。

一方、コマーシャルベースでないギャラリーもあります。それがレンタルギャラリーとよばれるスペースです。日本では「貸し」「貸しギャラリー」などと呼ばれています。ここではギャラリーの展示場所、および時間をアーティストが借り受ける事になります。よって作品の売買について、ギャラリー側は関与しないのが基本ですが、現在は様々なケースがあるようです。

この運営方法は言い方を変えれば不動産の短期契約であり、ギャラリー側としては作品がたとえ売れなくても経営が成り立つような賃貸料を設定してます。またギャラリーにとってのクライアントは作品を購入する顧客ではなく、賃貸契約を結ぶアーティストになるため、作品やアーティストの審査は基本的にありません。日本のギャラリーのほとんどはこのスタイルになります。また、ニューヨークやパリなどの大都市にも、そのようなスタイルのギャラリーが一部あります。

ただし現在はギャラリーの性格も多様を極め、上記二つのスタイルを織り交ぜた「半企画半貸し」のギャラリーなどもよく見かけるようになりました。これは例えば、スペースの賃貸料を通常の半額にする代わりに、作品売り上げの30パーセントをギャラリーが受け取る。あるいは、DMはギャラリー側が制作するが、オープニングパーティの経費はアーティスト側が請け負う、といったような場合です。いずれにしても、現代のアーティストは作品の制作だけでなく交渉する能力なども求められているのが現状です。

最後にギャラリー以外のアートスペースを紹介しておきましょう。オルタネイティブスペースと呼ばれているところです。本来は「alternative=代わりの」という意味ですが、どうやら既存の棲み分けでは当てはまりにくいスタイルのスペースにこのような名前を付けている場合が多いようです。ここではかたちのないアート、あるいはカテゴライズしにくいアートに対して発表する機会を提供しています。例えば身体表現などのパフォーマンスや朗読会などがそれにあたります。また一過性の作品、インスタレーション作品の発表にも利用されます。絵画や彫刻などを販売するのが目的でないという意味でコマーシャルベースではありませんが、入場料または鑑賞料を取る場合があります。しかし基本的にはアーティストとスペース側が共同でスポンサーを見つけ、その資金で活動しているようです。ここが入場料を採算ベースとしている音楽家のライブや演奏会、または映画館などと異なる点といえるでしょう。スポンサーには市や国などの公的な機関の場合と、企業などの民間企業の場合がありますが、どちらにしてもアートの支援に積極的な国や都市にこのようなスペースが多いのが特徴です。

以上がギャラリーについての簡単な説明になります。
ギャラリーが多い地域では平面専門や立体専門、写真専門など、特定のジャンルに特化している所もよく目にします。また最近ではアジア人専門やアフリカ人専門など、アーティストの国籍や民族性を全面に打ち出したギャラリーも増えてきている様です。アーティストも支援者も、そのギャラリーがどのような性格で運営されているのかをよく理解する事が大事です。アーティストにとっては自身の活動内容に直接影響を及ぼしてきますし、支援者にとっては好みのギャラリーを発見する事が大きな楽しみにもなるのではないでしょうか。いずれにしても、ギャラリーは美術館とはまた違った角度からアートと関わっています。アートをより一層身近に、そしてより深く感じとるための装置として、ギャラリーを積極的に活用していきたいものです。