1:ギャラリーとは

ギャラリーには大きく分けて二つのスタイルがあります。コマーシャルギャラリーとレンタルギャラリーです。

日本ではよく「企画展」「企画ギャラリー」、あるいは略して「企画」という言葉を耳にしますが、それらはコマーシャルギャラリーの意味として使われています。
なぜコマーシャルギャラリーを「企画」と呼ぶのでしょうか。

簡単に説明しますと、レンタルギャラリーでは、アーティスト自身が企画内容を考え展覧会をつくっていきます。(レンタルギャラリーについては後述します。)
それに対しコマーシャルギャラリーでは、作品を販売する為に様々なテーマを取り上げ、ギャラリーが主体となって展覧会を企画していくのです。その主語がいつしか抜けて「企画」という言葉になったというわけです。つまり「企画」は「コマーシャルギャラリーが展覧会を企画運営している」という意味を集約しています。

それでは個々の運営方法に注意しながら、ギャラリーのスタイルをみていきましょう。まず第一にコマーシャルベースのギャラリー。ここは作品の売買を主な目的としています。日本では古くから画廊と称していましたが、画廊はコマーシャルギャラリーとほぼ同義と考えて良いと思います。ただ画廊の場合は骨董を扱っているものも含みますので、ここでは現代作家の作品を扱うギャラリー、という括りで説明していきます。

多くのアーティストはギャラリーで個展の機会を設け、そこで作品を発表し、それを売って生活しています。と同時にギャラリーも作品の売り上げから様々な人件費、スペースの賃貸料、DMなどの広告費などを捻出しますので、作品の売り上げは双方にとって死活問題です。ですからギャラリーは慎重にその作品が売れるかどうか判断してからアーティストと契約を結ぶ事になります。

このような場合、アーティストとギャラリーは一蓮托生の関係にあるといえるでしょう。よって作品売買に関する利潤も折半を基準とするのが通例です。ニューヨークやパリのコマーシャルベースのギャラリーはほとんどがこのスタイルと言ってよいと思います。ギャラリストは様々なテーマで企画を考え、アーティストをリードしながら展覧会をつくり上げていきます。ギャラリーのホームページなどに「所属アーティスト」という項目があれば、そこはコマーシャルギャラリーであり、基本的にそのギャラリー所属のアーティストの作品をいつでも買う事ができます。いわばアーティストは球団でいうところの選手のような存在であり、作品に人気があれば値段も上がり、反対に評判が悪ければリストラされる事もあります。他のギャラリーへ移籍、というのも頻繁に行われているようです。

一方、コマーシャルベースでないギャラリーもあります。それがレンタルギャラリーとよばれるスペースです。日本では「貸し」「貸しギャラリー」などと呼ばれています。ここではギャラリーの展示場所、および時間をアーティストが借り受ける事になります。よって作品の売買について、ギャラリー側は関与しないのが基本ですが、現在は様々なケースがあるようです。

この運営方法は言い方を変えれば不動産の短期契約であり、ギャラリー側としては作品がたとえ売れなくても経営が成り立つような賃貸料を設定してます。またギャラリーにとってのクライアントは作品を購入する顧客ではなく、賃貸契約を結ぶアーティストになるため、作品やアーティストの審査は基本的にありません。日本のギャラリーのほとんどはこのスタイルになります。また、ニューヨークやパリなどの大都市にも、そのようなスタイルのギャラリーが一部あります。

ただし現在はギャラリーの性格も多様を極め、上記二つのスタイルを織り交ぜた「半企画半貸し」のギャラリーなどもよく見かけるようになりました。これは例えば、スペースの賃貸料を通常の半額にする代わりに、作品売り上げの30パーセントをギャラリーが受け取る。あるいは、DMはギャラリー側が制作するが、オープニングパーティの経費はアーティスト側が請け負う、といったような場合です。いずれにしても、現代のアーティストは作品の制作だけでなく交渉する能力なども求められているのが現状です。

最後にギャラリー以外のアートスペースを紹介しておきましょう。オルタネイティブスペースと呼ばれているところです。本来は「alternative=代わりの」という意味ですが、どうやら既存の棲み分けでは当てはまりにくいスタイルのスペースにこのような名前を付けている場合が多いようです。ここではかたちのないアート、あるいはカテゴライズしにくいアートに対して発表する機会を提供しています。例えば身体表現などのパフォーマンスや朗読会などがそれにあたります。また一過性の作品、インスタレーション作品の発表にも利用されます。絵画や彫刻などを販売するのが目的でないという意味でコマーシャルベースではありませんが、入場料または鑑賞料を取る場合があります。しかし基本的にはアーティストとスペース側が共同でスポンサーを見つけ、その資金で活動しているようです。ここが入場料を採算ベースとしている音楽家のライブや演奏会、または映画館などと異なる点といえるでしょう。スポンサーには市や国などの公的な機関の場合と、企業などの民間企業の場合がありますが、どちらにしてもアートの支援に積極的な国や都市にこのようなスペースが多いのが特徴です。

以上がギャラリーについての簡単な説明になります。
ギャラリーが多い地域では平面専門や立体専門、写真専門など、特定のジャンルに特化している所もよく目にします。また最近ではアジア人専門やアフリカ人専門など、アーティストの国籍や民族性を全面に打ち出したギャラリーも増えてきている様です。アーティストも支援者も、そのギャラリーがどのような性格で運営されているのかをよく理解する事が大事です。アーティストにとっては自身の活動内容に直接影響を及ぼしてきますし、支援者にとっては好みのギャラリーを発見する事が大きな楽しみにもなるのではないでしょうか。いずれにしても、ギャラリーは美術館とはまた違った角度からアートと関わっています。アートをより一層身近に、そしてより深く感じとるための装置として、ギャラリーを積極的に活用していきたいものです。